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 ISM研究会の皆さん,味のマゾッホこと今井です。この度,新シリーズ,“C
級グルメ やられた君”を投稿することにしました(シリーズと言っても,今
回で終わってしまうかもしれません)。このシリーズでは,私が見付けた巷の
名店を紹介していきます。美味しい食事は,人生に彩りを与えてくれます。皆
さんがタウンウォーキングする際は,是非とも参考にしてくださいね。

 第1回目は,国立の大学通り沿いの横丁に入ったところにある“ロージナ”
です。国立市民なら誰でも知っている有名な店です。コーヒーが飲めて食事も
できておまけにビールも飲める店というのは,国立にはこの店くらいしかあり
ません。また,地下1階,地上2階と割と大きな店で,しかも雰囲気もなかなか
いいので,一橋の学生・院生はここをよく利用しています。

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 国立と言えばロージナをお奨めする。著名なマルクス経済学者であった故野
々村一雄氏がこの店の名付け親であり,ロージナというのはロシア語で“祖
国”を意味する言葉だ。“社会主義の祖国”と言う時の“祖国”がロージナ
だ。ロージナはその名に恥じず,新たな味覚の祖国も目指しているようだ。

 スパゲッティトマトソース(正確な品書きは失念)は直径40cmの深皿に山盛
りに盛られてくる。普通の店の3人前はあるだろう。見たものは誰しも感嘆の
声を上げずにはいられない。缶詰めのホールトマトが原形を留めたまま,5〜6
個入っている。畑からとれたまんまの,フレッシュなにんにくのスライスがふ
んだんにちりばめられている。まるごとのトマトの間に生のにんにくがちりば
められている様は,さながら春の移り気な風の中に舞っている桜花のようでも
あり,さながら麗しき伯爵令嬢が明日の舞踏会に心躍らせて開けた宝石箱のよ
うでもある。野趣溢れるだけではない。それに目を奪われて,その背後にある
繊細さを見逃してはならない。大自然の恵みに対して敬意を払うシェフは,素
材のフレッシュな持ち味を殺さないように,細心の注意を以て接しているの
だ。

 が,特筆すべきはパスタの素晴らしさだ。茹でるときに魔法でもかけている
のか,外側はすっかり伸びきってしまっているのに,内側にはしっかり芯が残
っている。一体,どうしたらこんなことが可能になるのか。才能だけでは駄目
だ。努力だけでも駄目だ。才能と努力が幸運な邂逅を遂げてこそ,初めて生ま
れる魅惑のテクニックを,心行くまで堪能するがいい。

 他のメニューにも特筆すべきものが多い。例えば,直径50cmの大皿に盛られ
てやってくるシーフードピラフだ。ピラフについてわれわれが抱いていた既成
観念がいかに間違っていたのか,思い知らされる。熱々のご飯の中ににちりば
められた,まだ芯が凍ったままのシーフードミックス。見よ,熱と冷とのこの
組み合わせの妙を。溶けた氷からシーフードミックスの臭気が仄かに香り,ま
たその水分で,ピラフと言ってもリゾットのようにじっとりとしているではな
いか。このように,ライスの外側はおかゆ状であるにもかかわらず,内側には
しっかりと芯が残っているのが大きな特徴だ。新たなる美味の発見に,泉のよ
うに溢れ出てくる興奮を押さえることはできまい。

 外側は十分に火を通しておきながら,内側はフレッシュなままにしておく
──この繊細かつ大胆なテクニックを,シェフは決して出し惜しみすることは
ない。例えば,トーストだ。一斤の食パンを二つ割りにして,豪快にオーブン
にぶち込む。当然ながら,外側は真っ黒に焦げているのに,内側はレアなまま
である。食パンの肉汁を絶対に逃さないのだというシェフの意気込みが伝わっ
てくるようだ。

 国立には,この他にも名店が多い。一橋大学に立ち寄る際は,是非とも立ち
寄っていただきたい。