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尾崎君,ISM研究会の皆さん,今井です。ただいま猛烈に忙しいので,簡単
なコメントだけで失礼いたします。
「1. 市場価値規定について」
取り敢えず,尾崎君の主張を支えるためには,次の二点が明確になっていな
ければなりません。──
1.市場価値とは何か(市場価値と市場価格との違い)。そして,その理論的・
現実的意義はどこにあるのか。
2.(上の1.で明確にされた市場価値の概念に即して,)何故に加重平均説が正
しく,支配的大量説は間違っているのか。
それでは,特に問題2について,尾崎君の主張に追加的な質問を提起してみ
ましょう。
>大量支配の重要な点は、社会的・標準な生産条件が大量を
>なす個別的価値に位置するということであるが、市場においては意味を
>なさない。一定の労働時間の対象化としてしか意味をもたず、1部門を
>一部分をなすものに過ぎない。
恐らく,この点が尾崎君の支配的大量説批判のポイントになるのでしょう
が,何故に支配的大量説が間違っているのか,これだけではなかなか解りにく
いと思います。何故に「市場においては意味をなさない」のか,もう少し説明
していただければと思います。
>この区別には売り手間競争と生産者間
>競争とを区別することが必要である。
これも,宇野派の方々なんかの限界生産者と限界供給者との区別を意識して
いるのかなぁと想像しますが,今一つ何を主張しているのか,解りにくいと思
います。「売り手間競争」と「生産者間競争」とがどの点で異なるのか,そし
てその区別がどのようにして大量支配説批判に結び付くのか,もう少し説明し
ていただければと思います。
「2. 特別剰余価値について」
この項目はあまりに簡潔であり,尾崎君が主張したいポイントを正確に理解
することができませんでした。取り敢えず,生産力上昇に基づく特別剰余価値
を含んでいるような(つまり第1巻10章で取り扱われているような)社会的価
値(gesellschaftlicher Wert)を虚偽の社会的価値(ein falscher
sozialer Wert)と尾崎君は呼ぶのかどうか,──この一点だけお答えくださ
ればもう少し詳しいレスをつけることができるかと思います。
「3. 不明瞭の個所について」
いわゆる“不明瞭な箇所”が何故に──“理論的な誤謬”ではなく──「誤
記」と呼ばれるのかと言うと,マルクスの理論体系の帰結と,その箇所とが矛
盾している(と考えられる)からです。けれども,およそ“正しい”(=尾崎
君の)理論に照らして当該箇所が間違っているのかどうかということをはっき
りさせない限りでは,このような問題は無意味です。つまり,マルクスが「誤
記」したのかどうかということ以前に,“正しい”(=尾崎君の)理論から見
て,当該箇所が正しいのか誤っているのか,はっきりさせておいた方がいいと
思います。なお,──
>山本二三丸氏の「誤記説」の根拠は文献的には不確かである。
>ただし、需給不一致が市場価値に影響しないと論証できれば正しい。
という箇所から判断すると,尾崎君は,当該箇所は,誤記であるかどうかは別
にしても,少なくとも理論的には誤謬であると考えていらっしゃるのかとも,
思いましたが,もう少し明確にしていただければ幸いです。
さて,市場価値の規定については,尾崎君は支配的大量説ではなく,加重平
均説を採用していらっしゃるようです。その上で,いわゆる「不明瞭な箇所」
については,尾崎君は,(1)は誤記であると考え,(2)および(3)は誤記ではな
いと考えいていらっしゃるようです。
そこで,尾崎君の理論に照らして(2)および(3)を見てみましょう。──先
ず,(2)について。明らかに,「この最良のもとで生産される商品の個別的価
値と市場価値(er)とが一致することは、供給が需要をはるかにこえる場合によ
りほかには、けっしてありえない」ということは,逆に言うと,「供給が需要
をはるかにこえる場合」には「この最良のもとで生産される商品の個別的価値
と市場価値(er)とが一致する」ということを意味しています。しかし,優位・
中位・劣位という生産条件の三分割を前提する限りでは,個別的価値の加重平
均された量は,必ずや「最良のもと」で生産される商品の価値量よりも高くな
るはずです。それ故に,尾崎君の理論では,(2)の命題は──マルクスの誤記
であろうとあるまいと──理論的に誤謬であるということになるように思われ
ます。
次に,(3)について。これも(2)の場合と全く同じです。尾崎君の理論では,
生産条件の三分割を前提する限りでは,市場価値は必ずや「両極」での個別的
価値の中間になり,従って「両極の一方が市場価値を規定するということ」は
絶対にあり得ないように思われます。それ故に,尾崎君の理論では,(3)の命
題もまた──マルクスの誤記であろうとあるまいと──理論的に誤謬であると
いうことになるように思われます。
以上,俺の理解不足による質問が多いでしょうが,どうかご容赦ください。